私たちは未来に向けた
大きな夢をかかげて旅立ちます

ごあいさつ

 2011年3月11日、東日本一帯を襲ったあの大惨禍は心やさしき国の未来にむけた私たちの夢も打ち砕いたかに思えたのでした。

 “支えあう人の心のやさしさ”を合言葉に一本の映画を製作し、全国公開に向けたあの日はその直前のことでした。
映画「エクレール・お菓子放浪記」あの悲惨な戦火の時代をやさしい人の情に支えられながら生き抜いた一人の孤児の物語がこの作品でした。
メインの撮影地は宮城県石巻市、宮城県知事をはじめ数多くの宮城県民の手に支えられながらこの作品はこの世に生を受け、全国発信の願いを込めて東京での完成披露試写会を開催したのは何と2011年3月10日の日でした。
上映終了後会場を包んだ満場の拍手は、宮城県民の夢の全国発信への号砲の様にも思えたのでした。

 しかしながらその翌日、撮影地を襲った波の壁はすべてを破壊し尽くし、無残にも被災地に降る雪は私たちの心さえ凍らせたのでした。
ていねいに時間をかけながら準備を進めてきた宮城と東北の上映はすべて中断となり私たちは呆然と立ち尽くしていたのでした。
それでも、あの日から間をおかず、この作品は被災地支援の象徴の映画として人の手から手と伝えられ、口から口へと語られ全国に上映の輪は大きく拡がって行ったのでした。
「あの日の出来事を忘れずに地域多くの方々の旨威届けたい…」そんな願いを持って立ち上がった住民は、それぞれの市に町に「上映実行委員会」を立ち上げ被災地支援の上映運動をまさに次から次へと全国に拡げて下さったのでした。
そして上映開始から2年、そんな心の輪は全国47都道府県に拡がり、上映ヶ所827箇所、観客数45万人の大きな心の輪となってつながることになったのでした。

 こんな「エクレール・お菓子放浪記」の全国上映は私たちに多くのことを語ってくれました。
地域社会の崩壊が語られ、地域に人が孤立することに起因する悲しい出来事が毎日のように報じられる現代社会に、それでも間違いなく地域に人と人との心を通わせ、人が人を支えようとするやさしい願いが脈々と生きづいていることを…。
そして、そのことに関って映画という文化がとてもおおきな役割を果たし得ることを…。

  私たちが手を携えてその後全国上映を展開した「人生、いろどり」の非劇場上映、そして現在展開中の「じんじん」全国上映のこれも素晴らしい上映運動の拡がりは、私たちにこんな思いを更に熱く語ってくれたのでした。
映画の上映を一つの地域運動として全国に展開し、このことを通して「地域と家族の再生」を実現したい…。
こんな願いを語りながら私たちは新たな未来へ向かってその帆を高く掲げることにしました。

 日本映画の新たな製作と配給の道をその未来に一歩一歩刻みながら…。
そしていつまでも続く人の代の幸せを願って…。

共同組合 ジャパン・スローシネマ・ネットワーク

JSN発足までの足跡

「エクレール・お菓子放浪記」を巡る上映運動の足跡

冒頭のご挨拶にも触れましたが、JSN発足へのおおきな契機となったのは「エクレール・お菓子放浪記」の全国配給の足跡でした。 2011年3月11日以降、この作品は被災地支援の大きな役割を担うこととなり、全国に大きく拡がってゆきました。 各都道府県毎に上映運動の意義にご賛同の地域新聞社、テレビ局と手を携え、各県知事を先頭に県実行委員会を発足させ、そのお呼びかけのもと各市町村毎にご賛同の住民の上映実行委員会が結ばれ、上映運動の輪は大きく全国に拡がってゆきました。

「人生、いろどり」から「じんじん」へ…そして「スローシネマ」のスタート

「エクレール・お菓子放浪記」の全国に拡がった上映運動の足跡を更に確かなものにしたのは「人生、いろどり」の非劇場配給であり、そして何より「じんじん」の全国配給の素晴らしい展開でありました。 「人生、いろどり」は徳島の山間の小さな町、上勝町を舞台に繰り広げられた「葉っぱビジネス」をテーマにした作品でございました。極めて今日的な意味を語ったこの作品は、数多くの方々の共感となり、全国に大きく輪を拡げました。

「人生、いろどり」(平成25年)全国250ヶ所上映

そして、JSN発足の最も大きな契機となった作品が「じんじん」でございました。 北海道剣淵町を舞台に、「地域社会と家族の再生」を語るこの作品の全国配給を前に、私たちはいく度にもわたって議論を重ねてきました。 全国の劇場のそのほとんどがシネコンに姿を変える中で、映画館はいまや大都市にのみ偏在するもとなってしまいました。 それでも小さな視や町も切り捨てることなくこの作品をお届けしたい…願った私たちは、「じんじん」が語るテーマを一ヶ所一ヶ所足を運んで時間もかけながらお伝えし、ご賛同の住民の方々の手によって上映の輪を拡げようと決意してこの全国上映をスタートさせました。 「エクレール・お菓子放浪記」を引き継ぐ形でスタートさせた「全国上映」を、私たちはあえて「スローシネマ」と名づけ、意図的にその足跡を全国に刻んでみようと決意したのでした。2011年11月剣淵町の披露試写会からスタートを切ったこの作品は私たちの願っていた予想を超える程の力で全国にその足跡を刻み、本年度中にはおおきな実績となって日本映画と国の未来を妬く灯ともなり始めているのではないかと思っています。



そしてJSNは旅立ちます。

これまでのこんな実績は、幸い映画会には止まらない数多くの方々のご賛同となってつながり、精一杯に目の前の課題に取り組んできた私たちの願いは、いつの間にか更に前に拡がる道となり始めたのでした。
  • 必ずしも大手配給会社の手によらず作品を観客のもとにお届けする新たな配給の道への期待。
  • 映画の上映を通して地域社会に人と人との心を通わせ、子どもたちを健やかにその未来に送り出そうとする多くの人々の願い。
  • より良い映画づくりを志す製作者たちの期待…等々。
こんないくつかの願いがJSN発足へと私たちを駆り立てたのでした。